スパナ
- masaya f
- 2018年3月17日
- 読了時間: 4分
もう4年前になるでしょうか、ふと書いてみたくなった童話?です。 サウスカの奥地に住んでいる村人のところに、ある日空から光る物が落ちて来ました。それはスパナだったのですが、整備士がうっかり仕舞い忘れた物が何らかの原因で飛行機から落ちて来た物です。拾った村人は来る日も来る日も何だろうか?何に使うのか、どのように使うのか考え続けました。しかし、理解できないので悩んでいました。さて、サウスカの国は水不足が深刻な問題となっており、政府は技術援助を頼むことにしました。しばらくして、その村に先進国から開発援助に技師が何人か派遣されることになりました。そして二人の技師が、しばらく滞在して井戸を掘り、その水をみんなに供給する技術を教えていました。 ある日その悩みを抱えていた男は、思いきって一人の技師にそのスパナのことを尋ねてみました。「実はちょこらっとお聞きしたい事がありまして…。」技師は微笑みながら、「何でしょうか?」とその村人に近付きました。「半年くらい前に、おらがいつも通り畑に行ったら空からこんなもん降ってきてそいつを拾ったんです。」といって、そのスパナを見せました。 「ああ、これはスパナといって六角ボルトを締め付ける工具なんですよ。」技師は親切に答えてくれました。村人は言ってる意味が分からず、「六角ボルトってなんですかい?」と、もう一度聞きました。技師は村人からそのスパナを受け取り、村人に動作をつけて説明しようとした時、「あっ!」と叫びました。そして村人に一緒に着いてくるように言いました。彼は現在作成中の井戸の前で村人を手招きしました。汲み上げた水を流すパイプのジョイント部分の支柱の2箇所に。まだ十分締めていないボルトがありました。技師はそのスパナをボルトに当ててまわし始めました。「なんと言う偶然があるものだ!このボルトに合う組スパナのひとつが、私の工具箱になかったのに。」 村人は何が起きたのかさっぱり分からずおどおどしていると、技師は「あなたが悩んでいたことはこれで解決しましたよ。みて御覧なさい。これはこのように使う工具なんです。それが空から落ちてきて今それが役に立っている。私は家に忘れてきて困ってたんですが、こんなところで偶然にもスパナがあるとは。それも締めにくい場所にあってこのスパナでなければだめだったのです。このスパナを頂くわけにはいかないでしょうか?。」「もちろんですだ。おらが持っていても何の使い道のないものだで。いやぁ。でもすっきりしただ。半年間考えていた疑問の答えが得られたのでおらもうれしく、てうれしくて。」村人は自分の妻や子供たち、親戚中の全員に、そればかりか村中の人々にこの事を話して回りました。 さて、この話はこれで終わりではありません。村人の喜びはその技師の喜びだったのです。何故なら技師がサウスカに来たのは、村人のようにスパナについて悩んでいたからです。彼は自分の心というスパナについていつも悩んでいました。思い余って死のうとさえ思いました。自分の人生の意味を彼は子供のときからずっと考えていました。生まれて来て死に向かうだけの人生を納得することが出来ませんでした。彼の実家は水道工事の仕事をしていました。彼はお父さんの仕事を手伝いながら、色々な本を読みましたが満足のいく答えを見出す事が出来ませんでした。そんな時、彼はあるボランティアの話を進められ、しぶしぶ時間つぶしに手伝うことにしました。それは水道のない村に行って、井戸を掘るボランティア活動でした。彼は幾つかの村で奉仕をして、村人から大変感謝されました。その時彼は、何かしら自分の心のうちにある感情が湧き上がるのを抑えることが出来ず涙を流しました。いわば彼のスパナに合うボルトが見つかった喜びです。彼は行く先々でその喜びを経験しました。このサウスカでも同様の喜びを彼は味わいました。 皆さんはどうですか?自分のスパナにあうボルトは見出せましたか?組みスパナの数は限られていますが、それぞれの人の自分の役割というスパナには限りがありません。必ず合うものがあるはずです。人生はそのように作られています。最後まであきらめず探すことにしましょう。 今夜村人は、ご馳走を用意してあの技師のところに迎えに行くところです。でも一番のご馳走は、あのスパナの話で盛り上がることでしょうね。
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